高齢者にとって肺炎予防は、
大切な健康への取り組みです。
肺炎球菌ワクチンには、
「定期接種」と
「任意接種」という
選択肢があります。
肺炎球菌による感染症は、
高齢者にとっては重症化のリスクがあり、
マスク、手洗い、口腔ケアとともに、ワクチン接種で予防を考えたい重要な問題です。
しかし、肺炎球菌ワクチンには65歳での「定期接種」という機会があるにもかかわらず、
十分に認知されていない状況です。
今回の対談では、65歳の定期接種対象年齢である東ちづるさん、
定期接種の年齢を過ぎ喘息の基礎疾患のある歌手の小林幸子さんが、
呼吸器感染症の専門医である迎先生と、
高齢者は肺炎球菌ワクチンの接種をなぜ検討する必要があるのか、
接種するにはどうすれば良いのかなど、具体的な方法についてお話しいただきました。
高齢者の肺炎球菌ワクチン定期接種について
迎先生、
ワクチンの「定期接種」とは
どういう意味なんですか?
「定期接種」とは、「予防接種法」に基づき、国が定めた対象者が指定した接種期間にワクチンの接種を受けられる予防接種のことで、「A類疾病」と「B類疾病」に分けられます。A類疾病は集団予防に重点を置き、接種の努力義務が課せられ、接種費用は無料です。B類疾病は個人の発病または重症化の予防に重点を置き、本人が接種を希望する場合に実施されるもので、接種費用は一部公費負担となります。高齢者の肺炎球菌ワクチンの定期接種はB類疾病に分類されます。
65歳になったら、自治体からのハガキっていっぱいくるんです。だから、「ハガキが来たからワクチンを打つ」という感じで、定期接種という制度を使って接種しているという意識が全くありませんでした。
おそらく、私と同じ年代では、定期接種という制度でワクチンを接種しているということを意識している方は少ないと思います。
ワクチン接種は私たちの年代ではとても重要な問題なので、定期接種制度についての正しい理解が広まっていくことも重要ですね。
高齢者の
肺炎球菌ワクチンの定期接種は、
具体的にどんな人が対象ですか?
高齢者の肺炎球菌ワクチンの定期接種対象は、65歳の方です。
60〜64歳で、肺炎球菌に感染すると重症化するリスクのある方も定期接種で肺炎球菌ワクチンを接種していただけますが、まずは「65歳になったら肺炎球菌ワクチンの定期接種」と覚えていただきたいと思います。
「65歳になったら肺炎球菌ワクチンの定期接種」って、合言葉みたいで覚えやすいですね。60〜65歳ってやることが本当に多いので、このぐらいシンプルなのが良いです。
注:以下の方も定期接種の対象となります。
・60〜64歳で、心臓や腎臓、呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限される方
・60〜64歳で、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方
65歳というと、私も2026年の6月に66歳のお誕生日を迎えるまで65歳なのですが、今も対象ということになりますか?
東さんは2026年6月で66歳になるため、65歳のうちに接種を完了しておくと安心ですね。私も東さんと同級生なので、65歳で定期接種の対象です。
私が、65歳で
肺炎球菌ワクチンの定期接種の対象になっていることは、
どのようにして分かるのですか?
定期接種を実施している主体は地方自治体になります。
こんな感じのハガキや封筒が送られてきます。
そこに、費用はいくらか、どこへ行けば良いか等が記載されているので、このお知らせをみなさんにはしっかり見てほしいですね。
あとは、通知がない場合もあるので、そのときはかかりつけの医師やご近所の医療機関に相談いただくのが良いと思います。
65歳の時はいっぱいお知らせが来るので、見落としてしまいそうです。
そうですね。みなさん、年金通知などは気をつけて見ると思うので、肺炎球菌ワクチンの通知もそのくらい意識してほしいと思います。
そうですね、65歳から先の私たちの健康にとって、とても重要なものですからね。
確かに、こういう封筒やハガキが来るって事前に教えておいてほしいですね。私はとっくに65歳を過ぎてしまったのですが、もう肺炎球菌ワクチンの接種を受けることはできないですか?
また、2026年4月1日から高齢者の肺炎球菌ワクチンの定期接種で使用されるワクチンが沈降20価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV20)に変わりました。
2026年3月31日までに、ポリサッカライドワクチンで定期接種を完了している人でも、任意接種で結合型ワクチンを接種することができますので、かかりつけの医師にご相談いただけたらと思います。
定期接種の
対象年齢を過ぎた場合、
任意接種でも肺炎球菌ワクチン
は接種したほうが良いですか?
このグラフは、2018年〜2021年の間に肺炎球菌感染症が重症化して侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)に至った人を年齢別に表したものです。
65歳が定期接種の対象年齢ですが、決してそこで終わりではなく、そこから上の年齢でもずっと重症化のリスクは続いています。このグラフが示しているのは侵襲性肺炎球菌感染症を発症した患者さんの届出数なので、75歳を過ぎたら下がっているように見えますが、それは75歳以上の人口が減っているためで、発生の割合で見ると、むしろリスクは増えているんです。
さっちゃんも肺炎球菌ワクチンの接種など、肺炎予防をしっかりしてくださいね。
まだまだ歌ってもらわないと。
私、100歳まで歌うつもりなんです。
小林さんは喘息の基礎疾患もお持ちです。65歳以上の高齢者であることと、基礎疾患があるという二つのリスクがあるので、しっかり予防していきましょう。
定期接種の実施率について
私も先生と対談するまで肺炎球菌ワクチンのことを知らなくて、定期接種を見逃してしまっていたのですが、実際にはどのくらいの方が定期接種をきちんと受けられているのですか?
せっかく定期接種という制度が導入されていて、費用補助を受けながら接種できる機会があるのに、実際には3割ちょっとの方しか接種していない状況です。
この3割が高いか低いかという判断のために、他の例を出すと、インフルエンザワクチンでは5割以上の方が接種しています。
また、赤ちゃんでも肺炎球菌ワクチンの定期接種があるのですが、赤ちゃんでは90%以上の接種率です。赤ちゃんの場合は、4回に分けて接種するので1回の成人よりも回数が多いですが、保護者の方の意識が高いのだと思います。ですから、高齢者でも、みんなが「65歳になったら肺炎球菌ワクチンを接種する」という意識を高めていくことで、接種率はまだまだ上げられると思います。
そうですね。この年になると忘れっぽくなるので、「さっちゃん、肺炎球菌ワクチンの定期接種を受けたの?」なんて、お母さんみたいに周りの人が声をかけてくれるとうれしいですね。
定期接種で使用する
ワクチンについて
迎先生、2026年4月1日から、高齢者の定期接種で使用される肺炎球菌ワクチンが変わったとのことですが、今までと違いはあるのでしょうか。
高齢者の定期接種では、2026年の3月31日まで、23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)が使用されていました。
そして、2026年の4月1日からは、今まで任意接種でしか使用できなかった沈降20価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV20)に変わりました。
沈降20価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV20)が定期接種に使用されるのは、日本だけの特別なことですか?
世界では、色々な国が高齢者の肺炎球菌ワクチン接種で、沈降20価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV20)の接種において助成しているので、日本の高齢者の肺炎球菌ワクチン接種も、ようやく定期接種で世界に並ぶ環境が整ったと言えるかもしれませんね。
ワクチンを接種すると、菌に対抗するための「抗体」が作られます。
結合型ワクチンは、さらにメモリーB細胞という、免疫を記憶するための細胞も体の中に作ることができます。
そして、体の中にメモリーB細胞ができると、メモリーB細胞は肺炎球菌のことを記憶してくれます。
そのため、体内に肺炎球菌が入ってきても、肺炎球菌のことを記憶しているので、すぐにたくさんの抗体を作ってくれます。そして、この抗体で肺炎球菌を捕まえて排除してくれる、マクロファージという免疫細胞が働いて、この図のように菌を食べて排除してくれます。
こうやって接種したワクチンが、菌に感染した時に体の中でどんなふうに働くのかがしっかりイメージできるといいですね。
子どもの肺炎球菌ワクチンの
定期接種も同じワクチンですか?
はい、小児は高齢者よりもっと早く肺炎球菌ワクチンが導入されています。
肺炎球菌には、いろいろな種類(血清型)があります。そのなかでも感染症を引き起こしやすい7つの血清型を含んだワクチンが、PCV7という最初の肺炎球菌結合型ワクチンです。
2013年4月から小児の定期予防接種に導入されました。
そして、2013年11月にカバーできる血清型を増やしたPCV13というワクチンに切り換わり、2024年4月からPCV15、2024年10月からPCV20という流れで、約13年もの間、肺炎球菌結合型ワクチン(PCV)が使用されてきました。
注:2026年5月現在、小児の定期接種に使用する肺炎球菌ワクチンは以下のようになっています。
■ 原則として、沈降20価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV20)を使用
■ 沈降15価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV15)も使用可能
■ 沈降15価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV15)で接種を開始した方は、原則としてPCV15で全ての接種を行う。
子どもの定期接種でもずっと使用されてきた肺炎球菌結合型ワクチンが、高齢者でも同じように定期接種で使用できるようになったということですね。
高齢者が
肺炎球菌ワクチンを
接種する必要性について
先ほど、赤ちゃんたちが94%接種しているとおっしゃられていましたが、赤ちゃんたちがしっかり予防できているなら、私たち高齢者が無理に接種しなくても大丈夫、ということにはならないんですか?
今は高齢者の生活スタイルが昔とは大きく変わってきたと思います。
グラフの紫がお孫さんを含めて三世代で一緒に暮らしているパターンですが、全体の割合でみるとかなり減少していて、青や黄緑のように高齢者が単身またはご夫婦だけで暮らすパターンが増えてきています。
確かに私の周りもお孫さんと住んでいるお友達は少ないです。
少し前は、お友達が風邪を引いていると、「孫からうつっちゃって…」とか話していましたが、今は生活スタイルが変わっているから、予防についての考え方も変えていかないといけないですね。
その上、今は私の年代でもみんな元気で、あちこちへ出かけます。外で活動して、他の人と接触する機会が増えるから、その予防についても考えないといけないですね?
こういった高齢者の生活の変化は、肺炎球菌ワクチンの接種と何か関係があるのですか?
少し前は、家族というコミュニティを中心にして、肺炎球菌の感染予防が考えられていましたが、高齢者の生活スタイルが変わってきている現代では、成人間のコミュニティでの感染も管理しないといけない時代になってきています。予防対策の一つとして高齢者自身も、しっかりとワクチンの接種を検討していかなければいけないという考え方に変わっています。
高齢者は、免疫力が低下して感染症にかかりやすくなっているので、ワクチンの接種を含めて、しっかりと予防対策をしていくことがとても大切になります。
ワクチンの他に、
肺炎球菌の感染予防では
どんなことができますか?
肺炎球菌による感染症が
及ぼす影響について
肺炎球菌による感染症で、肺炎を起こすと、具体的にはどんな影響がありますか。
前回もお話ししましたが、肺炎は2024年、日本人の死因の第5位です。
1位の悪性腫瘍や2位の心疾患というのは、早期に発見することはできますが、なかなか病気そのものを予防することは難しいです。肺炎は「原因となる感染症を予防する」という手段があるので、是非、そのことを多くの方に理解してもらいたいです。
肺炎球菌による感染症は菌が肺に侵入すると肺炎、無菌の髄液や血液などの部位に広がると、髄膜炎や菌血症といった侵襲性肺炎球菌感染症という非常に重篤な状態を引き起こすことがあります。
そして、このような状態になってしまった高齢者のうち、22.1%が死亡し、8.7%に明らかな後遺症が確認されました。
肺炎球菌による感染も、重症化すると後遺症を残すリスクは十分にあります。
後遺症が残り、その後の生活で今まであたりまえにできていたことができなくなると困りますね。
新型コロナウイルス感染症は突然、重症化していくとニュースで聞いたことがありますが、肺炎球菌による感染も悪くなる時は一気に悪化していくのですか?
これは、肺炎球菌による感染症が重症化して入院に至った患者さんの入院後から死亡までの日数を示したものですが、死亡に至った46人の患者さんのうち、ほぼ半数の25人の方は、2日以内で死亡と急激な経過をたどりました。
このように肺炎球菌感染症にかかると急激に進行し治療が間に合わない可能性もあるので予防が重要になります。
感染してから後悔しても遅いですね。
予防対策の一つであるワクチンの定期接種という制度を活用できるチャンスがあるのですから、自分でしっかり感染予防対策をしていきたいですね。
肺炎球菌に感染して、命に危険が及んだり、後遺症が残ったりすることは、できるなら避けたいです。いつまでも元気に人生を楽しみたいですね。
そこで、今回はお二人に「健康寿命を少しでも延ばすことの大切さ」を知って欲しいと思います。
この図が示している平均寿命と健康寿命との差というのは、日常生活に制限があったり、介護を必要とする状態である「不健康な期間」を意味しています。平均寿命と健康寿命(日常生活に制限のない期間)の差は、令和4年で、男性8.49年、女性11.63年となっています。
つまり、今、日本の男性と女性の平均寿命は、それぞれ81歳、87歳とずいぶん延びてきましたが、みなさんが健康で長生きできているかというと、実際に日常生活に制限のない生活をできているのは、女性だと75歳ぐらいまでです。
11年も健康じゃない期間を過ごすなんて、大変なことですね。
目指したいのは、いつまでも元気で自分らしく生きることです。
75歳で健康に生きられる寿命が終わってしまうなんて、困ります。72歳の私にとってはあと数年になってしまうではないですか…。
健康な状態から突然、健康寿命が失われて要介護の状態になるのではなく、このように「フレイル」という体が弱っていく段階を経て、要介護状態となり、健康寿命が失われていきます。
この「フレイル」という健康を失いやすい状態が、いわゆる病気になったり、転んで怪我をすることですが、がんや心筋梗塞などみなさんがよく知っている病気だけでなく、肺炎を起こすことも「フレイル」の状態に入ってしまう要因になるのです。
確かにこうやって図で見ると、肺炎を起こして、健康寿命を失いやすい状態に入ってしまうといけないなと強く思います。
私がこれからも健康でステージで歌っていきいきと生きていくためには、「フレイル」という健康寿命を失いやすい状態にならないことが大切ですね?
しかし、高齢者が肺炎にかかると、入院などによって体力が低下し、これまで自分でできていた着替えなどの一般的な日常生活の動作がしにくくなることがあります。
日常生活での活動性が低下するために、心身の機能も低下して、寝たきりになったり、飲み込む力が弱まったりすることがあります。
そして、嚥下機能の低下は、病原体が肺に行きやすい状況をつくり、再び肺炎にかかるという悪循環を形成していく、つまりは「フレイル」の状態へと入ってしまうのです。
他には、高齢者が肺炎を起こすと、どんな影響がありますか?
あとは、認知機能への影響です。
肺炎を起こして入院した後に、物忘れが多くなるなど、認知機能が低下するという傾向があります。
病院での入院生活では、点滴を受けながら寝たきりの状態が続きます。
社会との関わりがなくなり、刺激を受ける機会が一気になくなっていく、このような状態になると、高齢者の場合、認知機能にも影響が出てくるのだと思います。
今は健康なので、入院している状態はイメージできないですが、確かに、何週間も病院のベッドに寝ている状態が続くと、体力も気力も落ちていくだろうな…と思います。
認知機能の低下は高齢者になると誰でも心配になる問題ですが、感染症にかからないように予防するなど、自分でもできる対策があるのであれば、一つずつやっていきたいと思います。
人生を通じて
予防接種で健やかな日常を
守るという考えについて
今日、先生にお話を聞いて、肺炎球菌ワクチンの定期接種の重要性を理解できました。
その一方で高齢者になってくるとどうしても、予防接種は子どもたちが受けるものというイメージがあるのですが、今は変わってきているのでしょうか。
そして、「どの病気に感染するリスクが高いのか」、「これからをどう生きていきたいのか」といった視点で、かかりつけの医師と話し合いながら、一人ひとりが必要なワクチンを選択できる習慣が、日本で広がっていくことがとても大切だと考えています。
まとめ
「どれだけ長く健康に生きられるか?」という、健康寿命を延ばすことの大切さを、
この肺炎球菌ワクチンの定期接種を通じて、
一人でも多くの方に意識していただけると良いですね。
好きな歌を歌って、お友達と会っておしゃべりできる時間を持てることが本当に幸せだと思うので、この時間を自分で守る努力は続けたいです。
本日の感想
心のどこかで、つい自分は元気だと思い込んでいる、自分だけは違うと思ってしまっているところがありますよね。改めて病気は予防が大切だと思いました。
自分の体は自分で守らないといけないですね。歳は平等にとりますものね。
その通りだと思います。
人生100年時代と言われる現代では、「どれだけ長く健康に生きられるか」という健康寿命を延ばすことが重要になってきます。この肺炎球菌ワクチンの定期接種を通じて、一人でも多くの方にその大切さを意識していただければ幸いです。
医師だけが呼びかけてもなかなか関心を持っていただけないこともありますが、お二人のようにいくつになっても第一線でご活躍されている方のメッセージであれば、多くの方にも届くと思います。