肺炎球菌についてもっと詳しく知りたい!
肺炎球菌は、子どもの感染症の二大原因のうちのひとつの細菌です。まわりを莢膜(きょうまく)というかたい殻におおわれた菌で、人間の免疫が攻撃しにくい構造をしています。なかでも小さい子ども、特に赤ちゃんのうちは、まだこの細菌に対する抵抗力がありません。このため、細菌性髄膜炎など症状の重い病気を引き起こしたりすることがあります 1) 。
1)厚生労働省:肺炎球菌感染症(小児)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/pneumococcus/index.html
2025/05/15参照
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肺炎球菌が引き起こしやすい病気について
肺炎球菌は、肺炎の原因になる細菌です。
ほかにも、細菌性髄膜炎、菌血症、中耳炎といった病気を引き起こします 1)。肺炎球菌は、子どもの多くが鼻の奥や気道に保菌しています。保菌しているだけでは問題ありませんが、残念ながら小さな子どもは肺炎球菌に対する抵抗力をもっていないため、比較的簡単に肺炎球菌に感染してしまいます。 カゼをひくと中耳炎になることがありませんか? これはカゼによって粘膜の抵抗力が落ちると、耳で感染症を起こすためです。 このように、肺炎球菌は、耳で感染症を起こすと「中耳炎」を、肺に入り込んで「肺炎」を、血液の中に入り込んで「菌血症」を、脳や脊髄を覆っている髄膜の中に入り込んで「細菌性髄膜炎」を発症します。
これらの病気は、もちろんほかの細菌やウイルスが原因で起こることもありますが、肺炎球菌は主要な原因で、肺炎球菌結合型ワクチン導入前の日本において
菌血症では54~72%[1番目] 2,3)、
肺炎の場合は46.6%[1番目] 4)、
細菌性髄膜炎では20~30%[2番目] 5)、
細菌性の中耳炎の場合は29.2%[1番目] 6)で
肺炎球菌が原因といわれていました。
1)厚生労働省:肺炎球菌感染症(小児)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/pneumococcus/index.html
2025/05/15参照
2)浅井洋子ほか:日本小児科学会誌 114(9): 1389, 2010
3)西村龍夫:日本小児科学会誌 112(10): 1534, 2008
4)坂田宏:日本化学療法学会雑誌 66(3): 366, 2018
5)砂川慶介ほか:感染症誌 84(1): 33, 2010
6)日本耳科学会、日本小児耳鼻咽頭科学会、日本耳鼻咽頭科感染症・エアロゾル学会編:小児急性中耳炎診療ガイドライン2018年版
https://www.otology.gr.jp/common/pdf/guideline_otitis2018.pdf 2025/05/15参照
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肺炎球菌に感染しやすい年齢
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肺炎球菌への感染を予防する方法
子どもの肺炎球菌感染症 1)を予防する方法には、肺炎球菌結合型ワクチンの接種があります。
2007年に、WHO[世界保健機関]は肺炎球菌結合型ワクチンを世界中で定期接種とするように推奨を出しました。それだけ先進国・開発途上国を問わず各国で肺炎球菌による病気が多いためです。
小さな子どもは肺炎球菌に対して抵抗力をもっていませんが、肺炎球菌結合型ワクチンを接種すると抵抗力ができるようになるので、一番この病気にかかりやすい年齢の間、肺炎球菌からお子さんを守ってあげることができます。
1)肺炎球菌結合型ワクチンの接種は侵襲性感染症の予防を目的としています。
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肺炎球菌についてのQ&A
Q. 肺炎球菌ってどんな菌?
A. ふだん小児科に来る子どもの病気の原因として、もっとも多い菌のひとつです。
肺炎球菌は名前のとおり、大人では肺炎になることが多いのですが、乳幼児の場合、肺炎のほかにも中耳炎や、菌が脳を包む膜にまで入りこむ細菌性髄膜炎というこわい病気になることがあります 1,2)。 また、肺炎球菌はまわりにとてもかたい殻があるので、からだを細菌から守ろうとはたらく白血球によってやっつけることがむずかしい、毒性の強い菌です 3)。
Q. 子どもはふつう、肺炎球菌をもっていないの?
Q. 肺炎球菌感染症を予防しないといけないのはナゼ?
Q. 子どもが肺炎球菌をもっているかどうか調べることはできる?
A. ふつうは、何かの病気になったときに検査をします。
肺炎球菌をもっているかどうかは、子どものノドや鼻の奥の菌を調べればわかりますが、ふつう、健康なときに検査することはありません。気管支炎や肺炎、中耳炎など、肺炎球菌やそのほかの細菌感染が考えられる病気にかかったときや、菌血症や細菌性髄膜炎のような症状があったときに、医師の判断で血液検査などの検査を行います 6)。
Q. 肺炎球菌は子どもが当たりまえにもっている菌なのに、何がきっかけで病気になるの?
Q. 耐性菌って何ですか? 耐性菌による病気にかかってしまうとなおらないの?
Q. 子どもの肺炎球菌ワクチンは日本だけのもの?
Q. 子どもが肺炎球菌をもっていても、ワクチンを打てば病気は防げるの?
Q. 肺炎球菌ワクチンを受ければ、細菌性髄膜炎を防げるの?
Q. 肺炎球菌による菌血症、細菌性髄膜炎ってどんな病気?
Q. 肺炎球菌が原因の発熱や中耳炎などについて、カゼやほかの原因のものと見分ける方法はあるの?
Q. 肺炎球菌の病気にかかっている子どもから、同じ病気がうつってしまうことはないの?
Q. インフルエンザのように、肺炎球菌による病気がはやる季節はあるの?
Q. 保育所に子どもをあずけるつもりだけど、何か特別な対策は必要?
1)厚生労働省:肺炎球菌感染症(小児)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/pneumococcus/index.html
2025/05/15参照
2)国立感染症研究所:細菌性髄膜炎とは
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/404-bac-megingitis.html 2025/05/15参照
3)中野貴司:小児感染免疫 21(3): 245, 2009
4)厚生労働省:小児用肺炎球菌ワクチンの切替えに関するQ&A
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/qa_haienkyuukin.html 2025/05/15参照
5)日本小児科学会:日本小児科学会の「知っておきたいわくちん情報」各論B-02 2024年10月作成
https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/VIS_B-02haienkyukin_20241001.pdf 2025/05/19参照
6)厚生労働省:感染症法に基づく医師の届け出 13侵襲性肺炎球菌感染症
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-09-02.html 2025/05/15参照
7)厚生労働省健康局結核感染症課:抗微生物薬適正使用の手引き 第二版
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000573655.pdf 2025/05/15参照
8)吉田耕一郎:昭和医会誌 69(3): 212, 2009
9)プレベナー13®水性懸濁注 医薬品インタビューフォーム 2023年9月改訂(第10版)
10)日本呼吸器学会呼吸器ワクチン検討委員会/日本感染症学会ワクチン委員会/日本ワクチン学会・合同委員会:6歳から64歳までのハイリスク者に対する肺炎球菌ワクチン接種の考え方(2021年3月17日)
https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/210317_teigen.pdf 2025/05/15参照
11)「細菌性髄膜炎診療ガイドライン」作成委員会編集:細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014(日本神経学会,日本神経治療学会,日本神経感染症学会監修),2014,南江堂
12)World Health Organization:Recommendations to assure the quality, safety and efficacy of pneumococcal conjugate vaccines, Annex 3, TRS No 977
https://www.who.int/publications/m/item/pneumococcal-conjugate-vaccines-annex3-trs-977 2025/05/15参照
13)砂川慶介ほか:感染症誌 84 (1): 33, 2010 14)日本耳科学会、日本小児耳鼻咽頭科学会、日本耳鼻咽頭科感染症・エアロゾル学会編:小児急性中耳炎診療ガイドライン2018年版
https://www.otology.gr.jp/common/pdf/guideline_otitis2018.pdf 2025/05/15参照
14)日本耳科学会、日本小児耳鼻咽頭科学会、日本耳鼻咽頭科感染症・エアロゾル学会編:小児急性中耳炎診療ガイドライン2018年版
https://www.otology.gr.jp/common/pdf/guideline_otitis2018.pdf 2025/05/15参照
15)日本小児科学会:日本小児科学会の「知っておきたいわくちん情報」総論A-01 予防接種の意義, 2024年9月作成
https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/VIS_A-01yoboseshu_20241001.pdf 2025/05/19参照
監修:千葉大学真菌医学研究センター
感染症制御分野 教授 石和田 稔彦 先生